建築に携わって四半世紀以上。内野さんの長年にわたる経験の中でも
「経験がない」という特異な条件だったのが、N邸の土地でした。
そもそも奥様のお祖父さんの代から所有していたその土地は、美馬市の山の中のみかん畑。
「本当にこんな場所に家が建つのかな？って、我ながら疑問でした（笑）」と、
今でこそ笑顔で語るNさんですが、家づくりを考え始めた当初は不安でいっぱいだったそう。
しかし、『建てようネット』で内野さんと面談をすると、その不安は一掃。
「最初の面談の時から、土地の図面を見ながらサラサラーっと簡単なスケッチを書いてくれたおかげで、
すごく具体的にイメージできたんです。2回目の面談では立体のモデルを作ってきていただけて、
さらにリアルに想像できて。何人かの建築家の方と面談しましたが、
そうして具体的に提案してくれたのが、内野さんにお願いする大きな決め手になりました」。
最初の面談時のスケッチに描かれた構想から大きな変更はなかったそうです。
周囲が360度自然に囲まれていること、土地の西側に市道が建設予定であること、
南に向かって下るなだらかな傾斜地であることなどを考えると、
平屋で、南に向かって3段階に下っていく形にするのは必然的とも言えたのです。
その形態は同時に、Nさんからの要望に具体的に応えるためのものでもありました。

抜群の通気性の秘密は、リビングに設置した高窓

Nさんからの具体的なオーダーはただ1点。
「エアコンを使わなくても快適に過ごせる家」ということでした。
風井戸の窓を設けて家の中で風を巡らせる「風井戸のいえ」を提唱する内野さんは、
その点でも最適の建築家だったのかもしれません。 
「周りを見渡せば360度を自然に囲まれている。
入ってくる風をどう活かすか、どう巡らせるかを考えました」と内野さん。
平屋にすることで天井高を自由に設定することができます。
周囲の山並を映す高低のある屋根にして、天井高の高いところに風井戸の窓を設置。
するとこれが効果抜群で、心地良い風が吹き抜けることに。
「スゴイです、本当に！ 窓をあけるだけで風が吹き抜けるんですけど、
あまりにすごくて思わず窓を閉めてしまうこともあるくらいです（笑）」と、
予想以上の風通しの良さに奥様もびっくりされています。 
独自のサーキュレーション・システムでエアコンいらず！ 
また、N邸では内野さん独自のサーキュレーション・システムを採用。
山並形の屋根の２つのピークの天井近くに空気取り入れ口を２つ設置。
ダクトで床下に導かれた空気が、地熱を帯びて各室の床の吹出口から
室内に戻ってくるようになっているのです。様々な手法がありますが、
内野さんのシステムは既成品を組み合わせただけのシンプルなもの。
室内の熱環境をできるだけ均一にするためのシステムです。
風通しを良くしたこと、蓄熱暖房機を設置したこと、
そしてサーキュレーション・システムを採用したことにより、
エアコンを使わなくても冬は寒くなく夏は暑くないという、Nさんの要望を叶えた住まいが実現したのです。

建築家にお願いすることで、笑顔の絶えない家に