建築家と素敵な家づくり
形や色、模様、そして配置。建物の見た目を左右する意匠設計は、建築家の思想が表れる要素の一つだ。今回、開さんが手掛けた住まいは、シンプルなデザインの中に、唯一無二の存在感を内包している。設計の原点となったのは、意外にも「余計なことはしない」という考え方だった。
「最初の打ち合わせの時に『音楽やアートなど、自分が好きなものに浸りながら暮らしたい』というご主人の希望が浮かび上がりました。建築的な表現を極力抑えることで、そこに住む人が、後で自由に色付けできるようにしようと思ったんです」。
開さんが最初のプレゼンで提案したのが、白い箱を積み重ねたプラン。1階を形成する大きな箱の中に四角いキッチンを配置し、その上にベッドルームを積み重ねるといった具合に、立方体を重ね合わせながら空間をデザインしていった。
「今回の建築デザインに取り入れたのが、抽象画で有名な画家、ピエト・モンドリアンの“コンポジション”と呼ばれるデザインです。窓や玄関のアプローチ、テラスや駐車場の目地などを四角で統一することで、世界的なアートの存在感を取り入れています」。
「余計なことはしない」という設計コンセプトの裏側には、これほどまでに深い思考が潜んでいるのだ。
立方体を積み重ねる中で生まれた“隙間”も、家の特徴を語る上で欠かせない要素の一つとなっている。
「たとえば、ダイニングの天井には、ご主人のアトリエにつながる隙間があります。一般的な吹き抜けは、空間の開放感を高める目的で用いますが、隙間は1階と2階の気配をつなぐためのもの。いろんな箱の中で家族がつながりながら暮らしていくイメージです」。
奥さまが立つキッチンからは、ダイニングとリビング階段の上部に2つの隙間が見える。開口部の形は、もちろん直方体。洗練されたデザインが、夫婦の心地良い暮らしと融合している。
一方、間取りのポイントとなっているのが、南側に配置されたキッチン。「南側にはマンションが立っているのですが、キッチンが絶好の目隠しとなって、日中でも窓を開放できるんです。一番日当たりの良い場所に、あえてリビングを配置しないという選択が、結果として大きな快適性へとつながっています」とご主人。さらに、家の南面をやや東に向けることで、東側に設けた広い庭の開放感を屋内に取り込んでいる。
「約1年にも及ぶ打ち合わせは本当に楽しかった。そのすべてが、この家の魅力になったと感じています」とご主人は話してくれた。
Aさんの夢を叶えた建築家 開達也
【プロフィール】
1972年生まれ、血液型 O型、牡羊座。大阪工業技術専門学校卒業後、現事務所に。一級建築士。 徳島大学工学部非常勤講師。
設計コンセプト
「アート・ファッション・音楽・本・料理と多くの趣味を持つAさん。要望はいたってシンプル。・アートを飾る四角い空間・アートを彩る白い空間空間が主役でなく、そこに住む人やアートやファッションが主役になる空間がほしい。そこには余計なものはいらない、シンプルな White Cube があればいい」
>>(写真キャプション)
建築データ
建築データ
■家族構成 施主、妻
■構造 木造2階建て
■工法 在来軸組
■敷地面積 384.16㎡(約1116坪)
■延床面積 合計105.99㎡(約32坪)
1階55.48㎡(約16.7坪)
2階50.51㎡(約15.3坪)
■スケジュール 設計期間2013年7月~2015年5月
施工期間2015年6月~2016年2月
■設計監理 開建築設計事務所
■施工 井上建設