» 2019/05/25/
かつて千利休による『待庵』に心惹かれ、阿波の茶会発祥の地とされる瑞巌寺で茶を学んだ中川さん。その時の経験を生かした平家が、美馬市の『茶と共に暮らす家』だ。
「とても懐の深い施主です。茶の本質である〝一座建立〞を地で行くように、僕の設計を楽しんでもらいました」。
文字どおり、茶道の師範のために設計した住居だが、伝統的な日本建築に終始しないところが中川さんらしい。
たとえば、波型のガルバリウム鋼板を用いた屋根は、付近の山々の形を写したもの。室内広間の半透明アクリル板の天井は、秋の紅葉を入れて照明でシルエットを映し出すなど、随所に粋な工夫が凝らされている。
そして、特筆すべきは、茶に関する基本を外さず、サプライズが加えられている点だろう。腰掛け待合を収納可能な床几としたのは、県南の漁村に見られる建築様式の一つ〝みせ造り〞の応用である。また、縦に長い茶庭に立体的な変化をつけるため、地面を掘って降り蹲を入れている。
「この住まいの主役である茶室の天井には楕円形の穴を開けました。中心が二つある楕円形は、茶席における主客の関係性を表現しています」。
施主に請われて茶室に掲げる扁額を揮毫した中川さん。『虚空庵』と名づけられた茶室を持つN邸は、施主と建築家の茶の湯に対する姿勢の結晶ともいえる平家となった。
本質さえ見誤らなければ、家づくりはもっと自由になる。美馬市の『茶と共に暮らす家』は、その事実を教えてくれる。
設計コンセプト
「茶道を教える師範の住居。茶庭に作る蹲を降り蹲にするため、造成前から排水管を埋設し、平地ながら高低差の変化のある茶庭を作っている。腰掛け待合は、県南の町並みにあるみせづくりの床几とし、使わないときに収納できるよう制作している。室内は外断熱の吹き抜け小屋組の中に、それぞれの間取りを障子や襖、入れ込み天井を組み合わせることで、ルームインルームのような2重入れ子のような構造とし、部屋の使い勝手により、組み合わせが出来るよう計画している」( 中川)
建築データ
■ 家族構成 : 施主・弟
■ 構造 : 木造
■ 工法 : 在来工法
■ 敷地面積 : 421.41m2( 約127.70坪)
■ 延床面積 : 合計 218.12m2( 約66.10坪)1階 218.12m2( 約66.10坪)
■ スケジュール :
設計期間 1997年7月~1998年6月
施工期間 1998年7月~1999年2月
■ 設計監理 : 中川建築デザイン室
■ 施工 : アーキテック
N邸間取り
① 玄関 1
② 寄付
③ 便所
④ 小間
⑤ 水屋
⑥ 広間 1
⑦ 広間 2
⑧ 東廊下
⑨ 南廊下
⑩ 西廊下
⑪ 台所
⑫ 洗面所
⑬ 浴室
⑭ 寝室 1
⑮ 寝室 2
⑯ 玄関 2
⑰ 納戸
【情報掲載日/2016年11月25日】
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