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» 2019/05/25/
ご家族の商売の歴史を支えてきた思い入れのある土地に、次代を担う子どもが暮らすための家を新築したい。そんな目的でスタートした家づくりだったが、そこには3世代それぞれの住まいや今後の暮らし方に対する思いが交錯していた。
「息子さんが暮らすだけではなく、県内外の親せきが集まる場所になったり、多様なゲストをお迎えしたりする機会も出てくるとのことでした。3世代をつなぐ縦軸と同時に、いろんな方々との関係をつなぐ横軸を満たす必要があったと言えます」と建築家の中野さん。
〝コの字型〟の建物の北側には、南側から豊かな光が届くLDKを配置。緑の人工芝が印象的な中庭を挟んだ向かい側に、フレキシブルに使える広いワンルームを設けた。現在は〝ゲストルーム〟と名付けられてはいるが、実はこの部屋の存在こそが今回の家づくりにおいて大きな意味を持っている。
「3世代それぞれのご意見を伺い、家の機能として次々に足していくのは思考的には楽な方法です。ただ、実際の建物のスケール感や全体的な予算を考えた時には『何を足すか』よりも『何を引くか』の方が大切になることが多いのです。南側に自由に使える空間を設けたのも『こう使いたい』と決めつけるより『こう使えるのではないか』という発展性を重視した結果です」と中野さんは話す。
あえて目的をあいまいにした空間を設けること。それは簡単なように見えて、非常に難しい作業だ。実際、中野さん自身も「将来的にはこんなふうに使われるはず」という明確な答えを用意していない。その絶妙な感覚は、これまでの経験の中で培ったものではないかと思わされる。施主は、中野さんとの家づくりの思い出について、ちょっぴり楽しそうに話し始める。
「こちらが『こんなふうに使いたい』と言っても『いえ、あえて決めつけずに将来的な余白を残しておきましょう』って。時には県外にも足を運びながら、私や祖父、息子の意見を本当に一生懸命に聞いてくれるのですが、私たちの意見を上手に取り入れる部分と、新たな提案をいただく部分のバランスが本当に素晴らしいんです」。
今では親戚が帰省した時の寝室として使ったり、広々とした収納空間として使うなど、そのフレキシブルさを十分に活用。「いつかは庭で映画を見たい」という子どもの夢も、余白を残した引き算の家づくりが導いた結果だと言えるだろう。
もちろん、アメリカ西海岸の雰囲気にまとめた2階の個室や、施主の憧れだった庭の打ちっ放しのコンクリート、外国製の水回りなど、個々の要望も随所に反映。それぞれが好きなものに囲まれながらも、自由に未来をデザインできる家が、ここに完成した。
Kさんの夢を叶えた建築家中野次郎
1974年生まれ、血液型O型、蟹座。信州大学工学部卒。北島コーポレーションで企画設計を担当の後、独立。一級建築士、インテリアコーディネーター、一級施工管理技士。
設計コンセプト
「都市部のコートハウス。線路、国道、近接建物からプライバシーを守りつつ、拡がりある豊かな空間を成立させることに努めた。室内→軒下→中庭、そして屋内つながりの『はなれ』という空間構成は、利用シーンにバリエーションをもたらす。晴れの日はリビングと中庭を合わせて開放的に過ごす。シトシト降る雨の日も、深い軒の下にテーブルを出す。日が暮れて自らの家の灯りに囲まれる安心感」
建築データ
■家族構成 3世代
■構造 木造2階建て
■工法 在来軸組工法
■敷地面積 413.47㎡(約125.07坪)
■延床面積 合計178.92㎡(約54.12坪)
1階142.49㎡(約43.10坪)*車庫含む
2階36.43㎡(約11.02坪)
車庫40.58㎡(約12.27坪)
■スケジュール 設計期間2018年8月~2016年8月
施工期間2016年10月~2017年8月
■設計監理 ナカノジロウ建築デザイン事務所
■施工 北島建設
K邸間取り
1 玄関
2 駐車場
3 LDK
4 コート
5 ゲストルーム
6 ユーティリティ
7 寝室
8 ベランダ