» 2019/07/02/
道の駅、大学施設、芸術家のアトリエ。野口さんが手掛ける建築は、どっしりとした重厚さの中に、繊細さを備えたものばかりだ。決して奇をてらわず、周囲の環境との調和を忘れない。そのスタイルの源流を辿ると、陶芸や美術といった建築以外の世界に足を踏み入れることになる。
「僕の師匠でもある黒田辰秋さんの作品が、違和感なく溶け込むような建築デザインが終生のテーマです」。
人間国宝として知られる黒田辰秋は、木工や漆芸を駆使して独自の作風を確立した人物。当時、京都の大学で建築を学んでいた野口さんは、卒業後に弟子入りを志願した。建築家としては異色の経歴と言えるだろう。
「京都って不思議な街で、路地を曲がった奥に人間国宝の工房があったり、喫茶店に国宝級のテーブルが置いてあったりする。そんな環境で仲間たちと建築談義に花を咲かせるうちに、本物の空気が吸いたいという想いが沸き上がったんですね」。
まだ若かった野口さんは、迷わずその懐に飛び込んだ。そこで見た技術や工芸作品は、息を呑むほど洗練されたものばかり。ジャンルこそ違うが「モノづくりの魂」が、そこにはあった。この時の経験が、今の建築手法に色濃く反映されているのだ。
もう一人、野口さんには師匠と呼べる人物がいる。徳島を代表する陶芸家、故・高橋和三郎氏。実際に師事したわけ
ではないが、彼のアトリエの建築を任された。独立して間もない頃だったという。
「細かな要望は一切ありませんでした。『あなたの作品を見せてください』というスタンスだと僕は感じた。これから建築家として、どのように生きていくのかを深く考えるきっかけになりました」。
ギャラリーへと続く一本の長いアプローチ、土から生まれる陶芸を意識した地下室のようなギャラリー。クライアントと心の対話を重ねながら、自分の中の「本物」をデザインへと落とし込んだ。その後、野口さんは徳島県第1号となる道の駅や大学施設など、数々のコンペを制して大型公共建築を手掛けることになる。そのどれもが本物の匂いを放っているのは、日本を代表するアーティストたちとの交流が大きかったことは言うまでもない。
「すべての建築が、街の良さや雰囲気を活かしたものであってほしいと思う。いつまでも色褪せない息の長い建築を作れば、街の魅力も倍増する。僕は、そういう建築を目指し続けます」と野口さん。師匠たちから学んだモノづくりの魂を、これからも建築に込めていく。
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新築
道の駅 貞光ゆうゆう館
美馬郡つるぎ町貞光字大須賀11-1
■完成/1995年10月 ■施工/西松建設
設計コンセプト
「北に吉野川、南に剣山を望む大景観の中に建つ道の駅。レストラン、物産センター、情報センター、公衆便所、シンボルタワーなど様々な機能をもつ施設である。美術作品などを展示するギャラリーも中央に設けられ、全国的にも利用率の高い道の駅として有名」(野口)
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新築
陶芸工房わさぶろう
吉野川市鴨島町飯尾625-3
■完成/1992年9月■施工/野口建築事務所
設計コンセプト
「陶芸家高橋和三郎氏の工房兼ギャラリー。四国山地へと続く田園風景を望む敷地にロクロ場、窯場などの工房と陶芸作品を展示するギャラリーとを設置した。平板瓦で葺かれたギャラリー棟には大きな天窓から光が降り注ぎ、土の結晶である陶芸作品を照らし出す」 (野口)
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新築
セルリアン・リヴ
徳島市東船場町2
■完成/2007年9月 ■施工/大林組
設計コンセプト
「新町川のリバービューと眉山のマウントビューを楽しむことのできるアーバンリゾート型の高級賃貸マンション。1階には有名ブティックが入り川側と通り側の両方に開かれている。又、通り抜け通路はふれあい橋、ボードウォークからの人の流れを新町方面に導いている」 (野口)
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新築
徳島大学工業会館
徳島市南常三島町2-1(徳島大学工学部内)
■完成/1996年8月 ■施工/西松建設
設計コンセプト
「徳島大学常三島キャンパスの北東角に、工学部の同窓会施設として計画。1階はレストランと和室会議室、2階はメモリアルホールと中小の会議室が配置されている。同窓会だけでなく、様々な講演会やセミナー、又学生・教員の憩いの場として利用されている」 (野口)