建築家が設計する店舗&施設

» 2019/07/05/

中村正則が設計する店舗&施設づくり


プロセスを共有し、同じ未来を描く。

 nakamura001

自分が歩んだ思考の道筋を共有する

 クライアントの要望を形にする際、建築家は多くの思考プロセスを経て一つの答えを導き出す。なぜ、こうあるべきなのか。どうして、他のプランを排除したのか。気の遠くなるような作業の積み重ねの中にこそ、提案すべき建築の本質が含まれている。だからこそ、中村さんはプレゼンに掛かる多くの手間と労力を惜しまない。自分が考え始めた初期プランが、いかにして完成系に至ったのかを共有するため、時には10段階もの資料を用いてプレゼンにあたる。

 「自分が歩んだ思考の道筋を、クライアントにもしっかりと理解してほしいのです。突然、結果だけを提出されても、その根拠や比較対象が見えなければ逆に迷ってしまう。なぜ平屋にしなかったのか、あえてギャラリーを作ったのかなどを手書きの図面を交えながら丁寧に説明することで、完成した後も正しく使っていただくことができると思っています」。

 お客への配慮から、若いスタッフがいきいきと働くための仕組みづくりまで、中村さんが手掛ける建築には「人と環境」へのメッセージが詰まっている。

 「単なる建物ではなく、建物と人が一体になると幸せにつながる。これは、店舗と住宅に共通する考え方です」と中村さんは言う。

完成後の建物をいかに機能させるか

 建築家にとって、自分の仕事は一つの作品でもある。美しさと機能性を備えた店舗や住宅は、時間を重ねるごとに地域の風景に溶け込んでいく。しかし、中村さんは「自分の作品という部分には、あまりこだわってないんですよね」とサラリと言ってのける。

 「建築デザインを手掛ける際には、いつも自分を強く出し過ぎないように意識しています。言い換えれば、クライアントやお施主様と一緒に考えながら作っていくことを優先しているのです。たとえば、専門学校のラウンジに配置する家具を購入する時には、職員にも同行していただき、実際にいくつかの家具を選んでいただきました。私のチョイスばかりを優先するよりも、より良い結果が生まれると信じているからです」。

 現場の担当者や経営者を巻き込み、多様な意見をテーブルの上に並べながら同じ未来を描いていくこと。そんな人間味あふれるプロセスを共有する中で、クライアントにも新たな自覚が芽生え、完成した店舗や施設は、その役割をまっとうするようになる。

 「どんな依頼にも、自分の信念を貫いていきたい」と中村さん。お客のこと、スタッフのこと、地域のこと。そのすべてを豊かに包み込む建築デザインは存在するのだ。

 

——————–

新築

徳島信用金庫 鴨島支店

吉野川市鴨島町鴨島字中郷388-1

■完成/2014年9月 ■施工/小野建設

設計コンセプト

「『人と環境にやさしい店づくり』を進めている徳島信用金庫。お客様や職員にとってやさしいユニバーサルデザインの環境づくりは勿論、太陽光発電や雨水活用した省エネ資源活用、自家発電設備を設置するなど防災対応も万全。今回、特に若いお客様を意識した明

るくカラフルな家具やインテリアに、また、店舗正面2階に大きなショーケースを設け夜間もライトアップ。地元の福祉施設の作品を展示するなど地域との共生を大切にしている」(中村)

屋内まで続く点字ブロックや、歩車分離による安全性の確保、太陽光発電パネル付きの街灯など、あらゆる「やさしさ」を店舗設計に取り入れた。

屋内まで続く点字ブロックや、歩車分離による安全性の確保、太陽光発電パネル付きの街灯など、あらゆる「やさしさ」を店舗設計に取り入れた。

お客もスタッフも元気になれるよう、屋内には鮮やかなビタミンカラーを採用。ふんわりとした足元のカーペットも待ち時間の緊張を和らげる。

お客もスタッフも元気になれるよう、屋内には鮮やかなビタミンカラーを採用。ふんわりとした足元のカーペットも待ち時間の緊張を和らげる。

1階の業務スペースと、ショーケースをイメージした2階のギャラリーが調和したファサード。ギャラリーの展示作品が浮かび上がる夜の表情も美しい。

1階の業務スペースと、ショーケースをイメージした2階のギャラリーが調和したファサード。ギャラリーの展示作品が浮かび上がる夜の表情も美しい。

吹き抜けでつながる2階のギャラリーには、地域の方々の作品などを展示。道路側からも作品が見えるなど、地域との結びつきを深めている。

吹き抜けでつながる2階のギャラリーには、地域の方々の作品などを展示。道路側からも作品が見えるなど、地域との結びつきを深めている。

————————–

新築

大井ビル

徳島市助任橋2-34-1

■完成/2006年4月 ■施工/北條建設

設計コンセプト

「バイク愛用者にはおなじみのオオイさんが、国道沿いにビルを建設。1階をバイク店、2~5階を学生用マンションに。外観はいつ見てもフレッシュなブルーに、通りの車中からはバイクが大量に見えるよう2段展示、インテリアはアクティブなライダーがワクワクするような素材や色使いを心がけた」 (中村)

徳島市のシンボル的な建物にするため、赤と青のカラーによって外観の印象を強めた。学生を対象とした全28戸の部屋は、常に満室状態を保っている。

徳島市のシンボル的な建物にするため、赤と青のカラーによって外観の印象を強めた。学生を対象とした全28戸の部屋は、常に満室状態を保っている。

青のタイルを使用した壁面と白い窓枠の組み合わせがカジュアルな外観。ビル名を表現した「001」のロゴマークがインパクトを加えている。

青のタイルを使用した壁面と白い窓枠の組み合わせがカジュアルな外観。ビル名を表現した「001」のロゴマークがインパクトを加えている。

敷地面積はそれほど広くないが、2段展示や鏡などを巧みに利用することで空間を最大限に活用。大幅な売り上げアップにつなげている。

敷地面積はそれほど広くないが、2段展示や鏡などを巧みに利用することで空間を最大限に活用。大幅な売り上げアップにつなげている。

——————————

改築

健勝会福祉専門学校 理学・作業療法学舎 ラウンジ

徳島市国府町東高輪字天満369-1

■完成/2015年3月 ■施工/山田工務店

設計コンセプト

「オープンすぎて丸見えで、落ち着きがなく、ゆったりとした気分になれない学生ラウンジ空間。廊下から直接見通せないようにし、一人でも小グループでも大勢でも、それぞれの様々な状況にあった、心地よく落ち着ける時間を過ごせるラウンジ空間に再生」 (中村)

リフォーム前のラウンジは、廊下の先にある明け透けな空間だった。OBからの寄付を活かし、予算を抑えながらも学生の集まる空間として再構築することに。

リフォーム前のラウンジは、廊下の先にある明け透けな空間だった。OBからの寄付を活かし、予算を抑えながらも学生の集まる空間として再構築することに。

作り付けのテーブルを除き、照明やチェアなどはインテリアショップで購入。奥にはカウンタースペースを設置するなど、個人やグループでの使いやすさを高めた。

作り付けのテーブルを除き、照明やチェアなどはインテリアショップで購入。奥にはカウンタースペースを設置するなど、個人やグループでの使いやすさを高めた。

廊下とラウンジの間に木のフレームを取り付け、床にカーペットを敷き詰めることで、領域感を生み出した。今では多くの学生にとって憩いの場所となっている。

廊下とラウンジの間に木のフレームを取り付け、床にカーペットを敷き詰めることで、領域感を生み出した。今では多くの学生にとって憩いの場所となっている。

 

建てようネット旧ブログ