» 2019/07/12/
いかにして店舗を装飾し、ディテールを積み重ね、雰囲気づくりを行うか。松田さんのスタートラインに、そんな発想はない。むしろ、建築的な要素を取り払い、商品の存在感を際立たせるための思考が繰り返される。それは、究極的な店舗や施設の在り方を目指した「ゼロの建築」と呼べるかもしれない。
「たとえば、小さなグッズをディスプレイする時、周囲の色や素材によって商品の魅力が損なわれないようにしたいと考えます。本当は、商品が空中に浮いているのがベストだけれど、さすがにそれは無理。どうすれば最小限のデザインで、機能的な空間を作ることができるのかを追い求めることになります」。
商品以外には何もない世界を思い描き、そこにクライアントの要望を少しずつ加えていく作業は、すでに建築という枠を飛び越えているように見える。建築家でありながら、建築的要素を限りなくゼロに近づけることで、やがて店舗の個性をあぶり出してゆく。
「建築が主張しない空間を創りたい。訪れる人々が建築を意識せず、そこにある商品の魅力を感じていただければ」と松田さん。まるで修行僧のようなストイックさが、研ぎ澄まされた建築のフォルムを生み出すのだ。
クライアントからの要望を、松田さんは意識的に「誤読」する。言い換えれば、受け取った言葉を咀嚼し、自分なりに新たなキーワードを紡いでいく。先方の要望を満たしながら、いかにその枠をはみ出せるか。そんな考え方をベースとしながら、建築家としての経験と感性を活かした提案を行っている。最初に出される設計コンセプトを見て、驚くクライアントも多いと言う。
「良い意味で、クライアントの期待を裏切りたい。相手の要望を満足させることはもちろんですが、自分が創りたいものを、いかにしっかりと図面で伝えられるかが大切。もしそれが伝わらなければ、すべて私の責任だと思っています」。
構造家や思想家として知られるセシル・バルモンドは、松田さんが尊敬する人物の一人。「自然はもともと素晴らしくデザインされている」という考え方のもと、過去の概念に縛られない建築を体現する異端児でもある。常識にとらわれず、物事の本質をあぶり出すという面において、松田さんも大きな刺激を受けている。
「でも、やっぱり一番大事なのはクライアント自身の想い。自分の世界に固執することなく、最良の着地点を探していけたら」と話してくれた。
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新築
pre vie (プレヴィー)
板野郡北島町北村字鍋井2-11
■完成/2006年10月 ■施工/小野建設
設計コンセプト
「樹木に覆われた芝生の上にそっと置かれたような佇まいのショールーム。屋根、床、壁の薄い3枚の板で構成された室内は、ガラスを介し外部の緑と一体化する」 (松田)
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改築
E’LU (エリュ)
東京都渋谷区神宮前
■完成/2000年2月■施工/カサイ東京
設計コンセプト
「RC造のテナントビルの荒々しいコンクリートはキャンバス、レザ(イラン人画家)により描かれた壁画は唯一の装飾となる。水廻り以外は自由なレイアウトが可能な可変空間の美容室」 (松田)
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改装
ハラダ 眼鏡サロン H.Q.
徳島市東新町1-21-1(ハラダ本店1F)
■完成/2013年12月 ■施工/マツシタ店装
設計コンセプト
「形態や色彩などの装飾的な要素を最小限にしたディスプレイ空間は、厳選されたブランドのハイクオリティーな商品を引き立たせる」 (松田)