» 2019/07/13/
建築界において、比類なき存在の一人に数えられる髙﨑正治氏。独創的に見えて、実は機能の追及の積み重ねによって構築されている、唯一無二の建築世界は海外からも賞賛を浴び続けている。髙﨑氏の弟子の一人である内野さんは、そんな師匠から多くのことを学んだという。
「建築に『いい頭』は必要ない。何度でも考え直せる『強い頭』をもて」。「建築に説明書は貼れない」。
今でもこのふたつは鮮明に覚えていて、スタッフの皆さんにもことあるごとに話す。
内野さんの手がけた店舗や施設は、その「用途らしいデザイン」を大事にしながらも、その建築だけの表情が必ず刻み込まれている。それは彼自身のデザインへの美意識であり、機能を追求した結果でもある。
「機能を突き詰めて、でもそれだけでおわってしまっては味気ない。なにかその建築だけに必要なデザインや形や意味を探します。突飛に見えるかもしれないデザインも、要求される機能からはじまって、つまりは理由があってそうなっている、と言える事に意味があると思う」。どの店舗にもどの施設にも、そんな内野さんの哲学が潜んでいる。
内野さんが手掛けた施設の一つに、大手企業の事業所内保育園「ビーンスターク保育園とくしま」がある。ジャックと豆の木の物語をコンセプトにした建築は社内でも評判となり、2年後には増築をするほどの人気施設となった。ここにも、子どもたちが健やかに成長するための「機能性」が散りばめられている。
「玄関を入ってすぐのジャックスホールには、あえてエアコンや照明を入れず、季節や時間の変化を感じられるようにしました」。
丸みを帯びた天井がゆるやかに垂れ下がり、ジャックと豆の木に見立てた杉の木が天井を貫く光景は圧巻。子どもたちは想像力を膨らませながら、降り注ぐ光や風とともに大切な時期を過ごしていく。
2011年には、高速バスの車内レイアウトを設計・監修するなど、建築の枠を飛び越えて活動する内野さん。寝台特急のような上質さを志向したデザインは、県内外から大きな反響を呼んでいる。
「店舗設計は、自分自身がお客さんになった気持ちで取り組むことが大事。繰り返し訪れたい場所になるよう、いつまでも色褪せない設計を心掛けていきたいですね」。
デザインの必然性を見極め、一つずつ丁寧に積み重ねていく。そんな彼の「強い頭」が、今後どのような建築を生み出すのか注目したい。
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新築
ビーンスターク保育園とくしま
徳島市川内町平石夷野224-16
■完成/2011年2月 ■施工/亀井組
設計コンセプト
「大小の各室はジャックスホールのまわりに交互に機能的に配置され、全体で子どもたちの躍動する姿をあらわす。入口側の大きな屋根はここから巣立つ子どもたちに授ける翼をイメージしている」(内野)
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新築
日本料理 よのぜん
徳島市富田町2-10-1
■完成/2000年10月 ■施工/赤松土建
設計コンセプト
「店内の活気が外に漏れ出すような、オープンすぎず閉じすぎない玄関廻り。ご主人との会話もにぎやかなカウンター周りと、打って変わってしっとりした露地のような通路に沿って並ぶ個室は静かで落ち着いた空間」(内野)
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新築
浄泉寺
兵庫県洲本市栄町4-3-43
■完成/2012年7月 ■施工/番匠中山
設計コンセプト
「焼失した本堂と庫裏の建替え。焼け残った向拝の巻き龍をくぐるとモダンな本殿。その奥の二層越しの風井戸を中央にもつ庫裏とつながる」 (内野)
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新築
はやし歯科口腔外科クリニック
徳島市中吉野町1-58-1
■完成/2011年7月 ■施工/島出建築事務所
設計コンセプト
「二方の道路に面して杉の列柱とガラスの繰り返しのみで構成。待合から診察、処置室をその内側に並べ、サービス、事務他のバックヤードはコアとしてさらにその内側にまとめる。神社の杜をバックに、行灯のように浮かび上がる」 (内野)