建築家が設計する店舗&施設

» 2019/07/19/

島津臣志が設計する店舗&施設づくり


店主のこだわりを、

漂わす空間づくり。

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普遍的な豊かさを設計に反映させる

 県内の建築家のもとで修業を積んだ島津さんが独立を果たしたのが、2012年頃のこと。新築や改修の手腕が見込まれ、最近では店舗設計の仕事も増え始めてきた。

 佐那河内での精力的な活動に加え、神山町では現在進行中のFood HubProject にも参加し、ベーカリー・グロサリーの設計を担当。「地産地食」をテーマに世代をつなぎ、町の未来を考えるプロジェクトに県内出身の建築家として関わっている。

 島津さんが手掛ける住宅設計と店舗設計には、一つの共通点がある。それは、流行に左右されることのない「普遍的な建築」をカタチにすること。雨が多い徳島の地域性を配慮しながら、いつまでも心地良く住み続けられる設計を心掛けている。

 「業種や立地によってはインパクトのあるデザインが求められることもありますが、まずは『豊かさ』を店舗にも反映させたいと思っています。地域の風景に溶け込みながら、不特定多数の人に心地良い時間を過ごしていただく。そういう意味では、住宅の設計コンセプトに近い部分があるかもしれません」。

 そこで働く人と利用する人が自然につながり、笑顔になる空間づくり。島津さんのひたむきな姿勢が、それを可能にしていると言っていいだろう。

本物志向だからこそ飾らない建築を

 島津さんが最近手掛けた店舗に、割烹料理の「かま田」がある。お店の場所は雑居ビルの2階。ご主人の希望により、道に看板さえ出さない本当の隠れ家となっている。

  「ご主人が独立されて、こだわりのお店をつくりたいというご要望でした。限られた予算の中で、いかに本物を表現するかが設計コンセプトでしたね」。

 お店の特徴は、素材の味を活かした料理を出すこと。「本物の旨さを味わってほしい」というこだわりが、そこにはあった。

 島津さんが最初に着手したのが、カウンターに使用する無垢の天板探し。クライアントと共に材木店を周り、長さ4メートル、奥行き70センチのケヤキを見つけ出した。

 「家具職人の元にも、ご主人を連れて行きました。依頼主の顔を見ると、職人たちのモチベーションが上がるからです。店舗建築に関わるすべての方々の調整役となり、より良い方向に導くことが建築家の大きな役割だと感じています」。

 モルタルによる壁面塗装や作り付けの洗面台の設置など、最小限の改修に留めたお店はたちまち評判となり、舌鼓を打つ客でカウンターは埋め尽くされている。建築の本質を見極めれば、人は集まるのだ。

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改修

かま田 (かまだ)

徳島市秋田町

■完成/2014年10月 ■施工/手島工務店

設計コンセプト

「無垢の欅のカウンターに8席だけの割烹店。本物の素材を生かすために、余計なデザインは極力控えている。料理を作る手元が見えるように、客席の高さを設定している。良質な素材と職人のさりげない一仕事。店が持つコンセプトをそのまま体現した空間」 (島津)

秋田町の一角にある雑居ビルの階段を上がると、ファサードが出現。コンクリートの壁に浮かぶ木製のドアと表札が、来訪者の気持ちを高める。

秋田町の一角にある雑居ビルの階段を上がると、ファサードが出現。コンクリートの壁に浮かぶ木製のドアと表札が、来訪者の気持ちを高める。

厨房からカウンターを臨む。クライアントと一緒に探し出したケヤキのカウンターが、本物志向の料理と相まってお店の格調を高めている。

厨房からカウンターを臨む。クライアントと一緒に探し出したケヤキのカウンターが、本物志向の料理と相まってお店の格調を高めている。

作り付けのシンプルな棚や、モルタルによる壁面塗装など、店内は必要最小限の改修に留めた。これができるのは、一枚板のカウンターが存在感を放っているからこそ。

作り付けのシンプルな棚や、モルタルによる壁面塗装など、店内は必要最小限の改修に留めた。これができるのは、一枚板のカウンターが存在感を放っているからこそ。

天井から杉板を吊ることで、照明の光量をコントロール。 明るくし過ぎないことで、隣の客同士の距離感を適度に保たせている。

天井から杉板を吊ることで、照明の光量をコントロール。 明るくし過ぎないことで、隣の客同士の距離感を適度に保たせている。

珪藻土による塗装がお洒落な水回り。洗面台は、ご主人自らが杉材を掘って作ったもの。ちょっとした場所にも、お店の本物志向が見え隠れする。

珪藻土による塗装がお洒落な水回り。洗面台は、ご主人自らが杉材を掘って作ったもの。ちょっとした場所にも、お店の本物志向が見え隠れする。

 

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