» 2019/08/05/
建築家
住宅[徳島市・A邸]
丈六の家
施主のAさんが新居さんに設計を依頼した当初は台所とダイニングの暗さや寒さの問題をなくすリフォームから始まりました。実は築20年の家を壊して、新たに建て替えても良いと考えられていたそう。しかし新居さんは、こんな提案をしました。「まだ20年しか経っていない家をもう壊すんですか? それだったら、改修することで時間の持続性を大切にして、なおかつ環境との調和を住まいの中に取り込めるような家に生まれ変わらせませんか?」。
Aさんは美容室を経営しており、過去には年に何度も海外に視察に行っていたそう。その時に、欧米人が自然や住まいをいかに大切にしているかという文化に触れると同時に、暮らしの中で美の感性を育めるような住環境にしたいと考えていました。「新居さんからの提案には根本的な考え方を共有できたので、リフォームにあたってこちらからオーダーするというよりは、その考えを表現できる家になれば良いという感じでしたね」(Aさん)。
生まれ変わった「丈六の家」でひときわ目を引くのは、南東・南西方向に設置されたとても開放的なガラス窓。室内にいても、周辺の田畑はもちろん、晴れた日には勝浦方向の山々など、明媚な景観を獲得しています。また、場所の特徴と青石や自然乾燥材の杉など地域の素材を生かしています。自然を財産と考え、“環境との調和”という理念が見事に住まいに反映されていると言えるでしょう。
「以前は壁で閉ざされていたので、室内にいて自然を感じられるようなシーンも少なかったんですけどね。今の生活を思えば、当時はどれだけもったいないことをしていたんだ、と(笑)。窓は四方に、開閉が可能で、風も抜けて気持ち良い。期待以上にこの自然によって感性が磨かれていくという感覚を得られるようになりました」(Aさん)。
もうひとつ、“環境との調和”という点では、庭にも注目です。「丈六の家」の正面には、水たまりが情緒的に、かつ自然な雰囲気で在ります。あくまで自然に作られたようにせせらぎが流れたり、水たまりに木々が映り込みます。庭師と建築家の精巧な意図によって作られたこの水循環は、リフォーム時に設置した高性能の合併浄化槽による浄化水や雨水を利用したものなのです。
「自然に生かされている感じ、包まれている感じを生み出そうと庭をデザインしていきました。この水によって緑を潤し、微気候を生み出す。そして、室内空間には、夏は木漏れ日と、涼しい風が入り全体を巡り、冬は落葉するので温かい陽光に包まれます。“環境との調和”という考え方に基づいた、素晴らしい家になったと思います」(新居さん)。
その考え方、エネルギー消費量が少なく、また建築としての美しさが評価され、2012年の日本建築家協会環境建築賞を受賞。名実ともに“環境との調和”を具現化した「丈六の家」こそ、豊かな自然を誇る徳島県において、21世紀を生きる私たちにとってのひとつの指針とも考えられるのではないでしょうか。
設計コンセプト
「豊かな風景の中で暮らす住環境を構想する。地域の緑の風景とつなげ、大樹の下で暮らす住空間をつくる。築20年の住宅を、2002年に再生。葉枯らし乾燥の木頭杉を使う。高性能の合併浄化槽による浄化水や雨水を利用し、緑を潤し微気候を生み出す。新鮮な空気が巡り、循環構造をもつ空間をつくる。2012年日本建築家協会環境建築賞」
設計のこだわり、苦労したところ
「旧家屋は予想した以上に脆弱な構造であった。日常生活の中で住み手の感性を高め、感受性を養い、心地よい暮らしの空間を望まれたことを、応えるように努めた。夏はほとんどエアコンを使わず、冬は朝、晩暖房するだけで、快適な空間を楽しまれている」
■家族構成
夫、妻
■構造・工法
木造・在来軸組工法
■敷地面積
875.74m2(約265.38坪)
■延床面積
合計 192.01m2(約58.18坪)
1階 126.06m2(約38.20坪)
2階 65.95m2(約19.98坪)
■スケジュール 設計期間
2001年2月~2001年11月
■工事期間
2001年11月~2002年6月
■設計監理
新居建築研究所
■施工
アークホーム
1 玄関
2 和室4.5帖
3 和室8帖
4 階段ホール
5 キッチン
6 広間
7 洗面所
8 浴室
9 坪庭
10 物置
11 石井式合併浄化槽
12 寝室
13 和室
14 便所
15 バルコニー
16 ウォークインクローゼット