建築家と素敵な家づくり
与えられた立地環境をいかに活かすかは、建築家の腕の見せ所の一つだ。プラス部分をいかに取り込み、マイナス部分をいかに打ち消すか。今回の建築で考慮すべき条件の一つが、後者にあたる部分だった。
「近い将来、家の周りには他の住宅も建つことが決まっていました。そうなると、家の中に光を取り込むことが難しくなってしまう。最初は2階をリビングにすることも検討しました」と杉本さんは振り返る。
結局、家族が集うリビングは1階に配置することに。小さなお子さまがいるため「なるべく土に近い所で育ってほしかった」という思いからだ。庭で遊ぶ子どもの姿を、両親がリビングやキッチンから見つめる。そんな幸せに包まれた未来がしっかりとイメージされている。
「周りに住宅ができた後も明るい光を取り込めるようにするため、南東のコーナーに吹き抜けを作りました」。
吹き抜けの外壁は1、2階を貫くガラス張りとなっており、日中は心地良い光が室内へと降り注ぐ。逆に夜は窓から暖かな光が外へと漏れ、家族の帰宅を迎えてくれる。外観のデザインにもインパクトを与えており、家のシンボル的な存在となった。たった一つの空間が、多くのメリットをもたらしたのだ。
もう一つの特徴が、玄関へと続く細く長いアプローチ。旗竿地を活用したアイデアだが、駐車スペースや子どもたちの遊び場として大いに活躍している。アプローチの突き当たりを左に曲がって玄関へ。このゆとりをもった導線こそが、暮らしを豊かに彩る仕掛けでもある。
「杉本さんは、私たちと一緒に楽しみ、そして悩みながら家づくりのアドバイスをしてくれました。本当に心強かった」とご夫婦。なかでも感動したのが、女性目線を活かした家事動線へのアドバイスだったと話す。
「仕事から帰ってきて疲れていても、なるべくストレスを掛けずに家事が続けられるよう間取りを提案してくれたんです。以前とは比べものにならないほど負担が減りました」。
奥さまが立つキッチンのすぐ西側に、洗濯脱衣室を配置。その南側に広々としたランドリーを配置し、屋内でも洗濯物が干せるようにした。取り込んだ洗濯物は、キッチンの後ろにある大容量の収納スペースにすべて収めることができる。
「本当に無駄なスペースがまったくない。家事って、こんなにも楽になるものなんですね」と奥さまも大満足。桜のフローリングのナチュラル空間に身を委ねながら、便利で快適な日々を過ごしている。
Tさんの夢を叶えた建築家
[建築家]杉本真理子
【プロフィール】
1964年生まれ、血液型B型、山羊座。神奈川大学建築学科卒。埴淵建築設計室、小西英利建築設計室を経て、独立。二級建築士。
設計コンセプト
「生活の中心に、光と風を取り入れる吹き抜けと大きなコーナー窓を設けた。玄関のアプローチには、土地の奥行きを活かし、離れに見立てた和室を廻りこんだ奥に木塀に導かれる路地を設けた」
建築データ
■家族構成 施主、妻、子ども2人
■構造 木造2階建て
■工法 在来軸組工法
■敷地面積 270.27㎡(約81.75坪)
■延床面積 合計117.25㎡(約35.46坪)
1階71.71㎡(約21.69坪)
2階45.54㎡(約13.77坪)
■スケジュール 設計期間2013年8月~2014年8月
施工期間2014年9月~2015年2月
■設計・監理 アトリエ・クー
■施工 司工務店
T邸平面図
1. 玄関
2. クローク
3. トイレ
4. クローゼット
5. 浴室
6. 洗面脱衣
7. ランドリー
8. LDK
9. ホール
10. 和室
11. ベランダ
12. 納戸
13. 寝室
14. 洋室