建築家が設計する店舗&施設

» 2019/07/08/

中川俊博が設計する店舗&施設づくり


都会のコピーではなく 徳島発の建築を。

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建築が生み出した水際の新たな風景

 中川さんが手掛けた店舗や公共施設には、一つの共通点がある。それは、建築の枠を超えた価値が存在するということ。今から20年近く前に設計した『しんまちボードウォーク』は、徳島市を水の都へと変貌させるほどの影響を与えた。今や週末になるとボードウォークにはパラソルショップが並び、県内外の買い物客であふれる。たった一つの公共建築が、街の未来を変えたのだ。

 「行政主導ではなく、商店街の人々の熱意が成功へと導いた数少ない事例だと思います。僕の仕事のやり方は、環境設計の中に建築デザインが付いてくるイメージ。その土地が持つポテンシャルをいかに引き出すかを考え、実現に向けての方法を模索します」。

 『しんまちボードウォーク』の建築目的は「水際の風景を活かし、徳島の名所をつくる」こと。中川さん自身が、県や市、商店街振興組合などを一つにまとめるコーディネーター役となり、大勢の人々を巻き込みながら、まちづくりを成功へと導いた。

 「自分が納得していないものを、人が納得してくれるわけがない。そこを踏ん張って形にするのが建築家だと思う」。全国のウォーターフロント開発の先駆けとなったこの事業には、5千を超える団体が視察に訪れたという。

たとえ5 坪の店でもオリジナリティが必要

 『徳島県青少年センター』の改築は、コンペティションを通じて中川さんが獲得した仕事。「徳島らしさを持たせたい」という県の要望に対し、外壁そのものを地元の草木で覆うという大胆な発想を取り入れた。当時、公共事業としては全国最大規模の緑化計画であったため、都市部からも多くの視察が訪れたという。ボードウォーク同様、いかに建築の中にオリジナリティを追求しているかが分かる。

 「ローカルの店舗設計や公共事業のほとんどが、都会のマネをしている。たとえ5坪しかない店舗でも、オリジナルを追求しないと、利用者に魅力は伝わりません」。

 中川さんの建築手法に決まった型はない。施主や事業主の要望と、周辺環境の特性を見極めながら、状況に応じてあらゆるテイストを使い分けていく。時には和の中にモダンを求め、歴史の中に新しさを求める。慎重に積み重ねられたロジックは、唯一無二の建築として付加価値を生むことになる。

 「誰だって、自分のことが一番分からない。それを客観的に見つめ、ベストな形を提案するのが僕の仕事だと思っています」と中川さん。機能する建築はやがて街に溶け込み、いつまでも色褪せない風景として人々の心に刻まれるのだ。

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新築

WestWest

三好市山城町西宇1468-1

■完成/2004年12月 ■施工/西村建設

設計コンセプト

「四国の最深部、大歩危の地にまちおこしの拠点となる、新しい観光複合施設を創ろうと計画。ラフティング施設を中核に、コンビニ、スポーツ用品ショップ、土産店、徳島ラーメン店などを配置し、川側にも施設をつなぐデッキ通路を設置している。施設を貫くように谷底へ降りる通路を設け、ゲート看板としての役割を持たせた。駐車場からは平屋だが、川側からは2階建ての懸崖造りとしている。配置は、敷地に合わせ、300Rの円弧を描くように大きくラウンドしている。現在では大歩危祖谷地方の観光スポットとして、道の駅のように利用され、地域活性の拠点として運営されている」 (中川)

今はラフティングの聖地として知られるようになった大歩危峡。地元に新たな文化を根付かせたのも、県内外からテナントを集めた同施設の役割が大きかった。

今はラフティングの聖地として知られるようになった大歩危峡。地元に新たな文化を根付かせたのも、県内外からテナントを集めた同施設の役割が大きかった。

豊かな自然の風景に溶け込むファサード。中央の通路は、展望台や共同トイレへとつながっている。中川さん自身も、テナントへの企業誘致に関わっている。

豊かな自然の風景に溶け込むファサード。中央の通路は、展望台や共同トイレへとつながっている。中川さん自身も、テナントへの企業誘致に関わっている。

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新築

しんまちボードウォーク

徳島市東船場1丁目~2丁目

 ■完成/1997年7月 ■施工/竹中工務店、赤松土建、勝浦組 等

設計コンセプト

「空洞化する徳島市中心部を活性化しようと地元商店街が自ら開発を提案し、最終的には商店街組合事業(ボードウオーク)、徳島市(新町公園、両国公園)、徳島県(新町公園親水階段護岸、みちしお水族館)の5つの異なる事業が官民一体事業として住民主導で行われた全国的にも貴重な事業。その後の全国のリバーフロント開発のお手本となっている(道頓堀ボードウォーク等)。利用する市民県民には一体整備が必要と統一デザインで設計し、そこでのパラソルによるバザー(現在はしんまちマルシェ)やボードウォーク沿いの開発(旧高原ビルー現在国際ビル)等、水都徳島の新しい顔を作り出そうと計画した」 (中川)

新町橋のたもとに作られたイベント広場。県や市など場所によって異なる事業区分や、厳しい河川法を一つずつクリアしながら、親水性を持たせたスペースを実現した。

新町橋のたもとに作られたイベント広場。県や市など場所によって異なる事業区分や、厳しい河川法を一つずつクリアしながら、親水性を持たせたスペースを実現した。

ボードウォークの建築と合わせ、新町川沿いのビル(現・国際東船場113ビル)を改築。昔ながらの街側と新しく生まれ変わる川側それぞれに、異なる顔を持たせた。

ボードウォークの建築と合わせ、新町川沿いのビル(現・国際東船場113ビル)を改築。昔ながらの街側と新しく生まれ変わる川側それぞれに、異なる顔を持たせた。

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新築

とくぎんトモニプラザ(旧徳島県青少年センター)

徳島市徳島町城内2-1

■完成/2009年5月 ■施工/坂本工務店、三笠電気、三晃産業 等

設計コンセプト

「老朽化した徳島県青少年センターの耐震改修と機能リニューアルを、PFI事業で行う全国初の事業。既存施設の耐震化と、食育というテーマを実践するキッチンスタジオとカフェ部分を新設し、青少年の健全な育成をサポートする施設として全面リニューアルをした。新築をした施設のファサードは、徳島の豊かな自然を表し、城山からの緑をつなぐよう全面を緑化し、緑の立体森としてデザインをしている。約30種類の徳島に自生する植物を主に植え込んであり、都市部のヒートアイランド対策としても考慮をしている。この森は、徳島市のインフラと共に生きる人が作った森である」 (中川)

緑豊かな表情に生まれ変わったファサード。公共事業としては全国で最大規模の緑化として注目され、国や大手ゼネコン、公共団体などがこぞって視察に訪れた。

緑豊かな表情に生まれ変わったファサード。公共事業としては全国で最大規模の緑化として注目され、国や大手ゼネコン、公共団体などがこぞって視察に訪れた。

壁に掛けられた存在感のあるレリーフは、旧施設に飾られていた銅製の作品にペンキで着色したもの。従来の環境を活用しながら、新たな空間へと生まれ変わらせた。

壁に掛けられた存在感のあるレリーフは、旧施設に飾られていた銅製の作品にペンキで着色したもの。従来の環境を活用しながら、新たな空間へと生まれ変わらせた。

 

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新築

ロゼッタ・カフェ・カンパニー

小松島市堀川町2-4

■完成/2014年5月 ■施工/島出建築事務所

設計コンセプト

「小松島の市街地に建つカフェ。周辺は何の特徴もなく、敷地は道路から入り込んだ旗竿敷地であった。土地がJR牟岐線に隣接していた事から、鉄道路線を庭として借景利用し、ちょっと珍しい景観を演出出来るのではと考え、道路側は入口付近のみ見えるよう窓を取り、客席からは鉄道側のみに窓を取り、裏側に開放的な造りとしている。たまに通る JRの車両が時計代わりとなり、騒音も時の調べとして認知してくれたみたいでホッとしている。鉄道オタクにはなかなかいいカフェだと思っている」 (中川)

赤い壁とナチュラルな素材が印象的な店内。あえて線路側にのみ大きな開口部を設けた。時折通り過ぎる汽車の風景が、この店にしかない価値となっている。

赤い壁とナチュラルな素材が印象的な店内。あえて線路側にのみ大きな開口部を設けた。時折通り過ぎる汽車の風景が、この店にしかない価値となっている。

非常にシンプルな造りにもかかわらず、他にはないカジュアルな存在感を放つファサード。線路側の風景を際立たせるため、あえて道路側に窓はつけていない。

非常にシンプルな造りにもかかわらず、他にはないカジュアルな存在感を放つファサード。線路側の風景を際立たせるため、あえて道路側に窓はつけていない。

 

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