» 2019/07/17/

ありそうなものが、ない。中野さんが手掛ける店舗に見られる特徴の一つだ。「ありそうでないもの」とは、店の存在を示す大きな看板やテントであったり、入店してすぐの場所にあるはずのレジカウンターやショーケースであったりと、目指す方向性によってフレキシブルに形を変える。商売のセオリーとも言える要素をあえて外す行為の裏側には、徳島の地で経営を成功させるための思考が潜んでいる。
「人口の少ない徳島で商売をやっていくには、リピーターを獲得する店舗づくりが求められます。分かりやすさや目立ちやすさに寄りすぎても面白くないし、逆に隠れ家的なこだわりを詰め込みすぎても客足が伸びなくなる。その相反する要素のバランスを見極めることが、独特の消費行動を持った徳島で、長く経営を続ける秘訣だと考えています」。
中野さんの仕事は、クライアントとの入念な打ち合わせと、効果的な情報収集から始まる。たとえば、女性をターゲットにした店を形作る時は、必ず周囲の女性の意見を集め、その中から慎重に答えを導き出す。「常に自分の中に正解があるとは思わない。ただし、最後に答えを導き出すのは僕の役目」と言う。
誤解を恐れずに言えば、中野さんの仕事には「面倒くさい」が常につきまとっている。たとえば、店舗に円筒形の外観を採用するためには、一般的な建物と比較して大きな労力と予算が必要になる。しかし彼は、自分が導き出した最良のプランを簡単には諦めない。職人たちと話し合いを重ね、費用対効果を細かく算出しながら、新たな挑戦に身を投じる。インテリアにも既製品や中古品、作り付けを細かくミックスさせながら、どこにもない空間を作り上げていくのだ。
「誰かが同じように真似したいと思っても、簡単には再現できない。それが、オリジナリティだと思っています。面倒な作業をコツコツと積み重ねることでしか、実現できないことかもしれません。それだけに、完成した時の達成感は計り知れないですね」。
設計図を描くことも、中野さんにとっては仕事のごく一部でしかない。建物が完成し、実際に運営するまでの期間のサポートこそが、店の将来に大きく関わることを知っているからだ。建築家とは、経営者の良きパートナーであり、時に優れたコンサルタントでもあることを物語っている。
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新築
Natural Gelato+Café Natura ~ナチューラ~
板野郡北島町中村字江口1-8
■完成/2007年5月 ■施工/DEE WORKS
設計コンセプト
「旧吉野川と広葉樹の大木。『川と木』の景観を活かし、自然の移ろいを感じてもらえる建物をめざしました。北側にある『川と木』に向かって、お客様がゆったりと時間を過すことに加え、スタッフも同じ方向を向き、心地よく作業できるような、動線と機能を配置しました」 (中野)
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新築
hair & spa CASA
板野郡北島町中村字江口42-1
■完成/2014年12月 ■施工/中山建設
設計コンセプト
「『CASA』。家のように、お客様をお迎えし、おもてなしするというコンセプトが設定されました。居心地と共に、ランドマークとしての役割を果たすため、とんがり屋根の丸い家、つまり『ムーミンの家』のような、柔らかくも特徴的なお店となることを心掛けました」 (中野)