» 2019/07/07/
日が沈み、暗くなれば灯りをつける。そんな常識にとらわれているうちは、久住さんの手掛ける建築の根本を理解することはできないだろう。人にとって心地良く、健康的な空間とは何なのか。その究極の解を追い求める建築家の一人と言えるかもしれない。
「日本の場合、一般的な住宅の照度は約2百から3百ルクスですが、私はそれを20分の1以下に調光することを提案します。逆に言えば、今の住宅は明る過ぎる。本来は日が沈むにつれて部屋の照明も落としていく方が、人間の生態リズムに合っているのです」。
一見、常識から外れているようにも思えるが、照明計画を重視する北欧では当然の考え方でもある。たとえばダイニング照明の位置も、久住さんが手掛けると、テーブルからわずか60センチ以内の高さに取り付けられる。照明を近づけるほど陰影がつけやすく、空間はもちろん、向かい合う家族の表情が豊かになるからだ。また、調光率を50%にするだけでランプ寿命は20倍になり球切れを解消できる。
「ヨーロッパの人々は、自分が家の中のどこに立つと美しく見えるかをよく知っています。照明の位置や種類を意識することで、明るさや演色性をコントロールするのです」。
近年の主流となっている建築手法を疑い、最善の形態を追求する。そんな姿勢は、店舗設計においても変わらない。
近年手掛けた有料老人ホームにも、高齢者施設の「常識」を覆した手法が多く取り入れられている。その一つが、蝋燭の明るさまで照度を落とした照明計画。人工照明と自然採光をうまく融合させながら、必要最小限の光の中で生活が行えるように配慮した。
「施設内の照明は、季節ごとに明るさをコントロールできるようにしました。時間とともに部屋も暗くなるので、健全な眠りのリズムを保つこともできます」。
明るくなると目覚め、暗くなると眠る。この当たり前のことが、人にとってどれほど大切なことかを、久住さんは知り尽くしている。その卓越した照明計画は、ホテルや店舗、施設など、人が集まる場所すべてに応用することができる。
また、無駄な要素をそぎ落としたシンプルでモダンな佇まいも、彼が手掛ける建築の特徴と言える。それは西洋のコピーではなく、日本的でもない。決して流行に左右されることのない存在感が、そこにはある。
「住宅と違い、店舗は不特定多数の人がターゲットになる。でも、全員に100点の店舗を目指すと、何の特徴もない店になる。そのバランスを見極めることが大切だと感じています」と久住さん。その視線は、建築のさらなる未来を見つめている。
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新築
モアナコースト別館 Villa Bel Tramonto
鳴門市鳴門町土佐泊浦高砂186-16
■完成/2013年9月 ■施工/島出建築事務所
設計コンセプト
「別館のリニューアルは、限られた客室数で大人だけの非日常空間をコンセプトとしている。マッサージバスタブから眺める里山に落ちる夕日。また、蝋燭の明るさ(照度)を意識した照明計画が忙しかった日常を癒してくれることを期待している」 (久住)
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新築
枡富歯科医院
板野郡藍住町奥野字西中須94-1
■完成/2009年10月 ■施工/司工務店
設計コンセプト
「敷地は東道路に面し、南を底辺とした直角三角形である。建物は南棟と北棟に分け、渡り廊下、スクリーンで囲み中庭を設けた。また南棟は南側にコの字型スクリーンを設け植栽スペースを確保した。この中庭、植栽スペースが診療空間を演出する」 (久住)