» 2019/07/21/
徳島で新たに店舗をオープンさせる場合、予算を潤沢に掛けられないケースは多い。個人経営や小規模経営が多いことも、その理由の一つと言えるだろう。その際、有力な選択肢の一つとして挙がるのが、既存の建物の改築による店舗設計だ。
「僕の中での店舗建築は、改装やテナント型が優先されることが多い。あえて新築にするよりも、費用対効果が高いと感じることが多いからです」。
そう話す今瀬さんは、これまで数々の新店舗の設計に関わり、それぞれを客の集まる注目店へと成長させてきた。フランス語で粋・洗練されたという意味を持つ、美容室「ラシック」の建築デザインも、彼が手掛けた店舗の一つ。この仕事は、今瀬さんが以前から目を付けていたビルのテナント改築を提案することから始まった。
「店舗設計で一番お金が掛かるのが外装なんです。それなら、最初から存在感
のある建物を使えばいい」。
そのビルは、一見すると茶色のレンガが老朽化した建物にしか見えない。しかし、シンプルなデザインが施された美容室がテナントとして入った瞬間、洗練された都会の匂いを漂わせ始める。今瀬さんの言う「改築だからこそできる、店舗設計」の真髄が、ここにある。
新生児フォトを手掛ける写真館として若い世代から注目を浴び始めたスタジオがある。店舗名は「Studio D&M」。父の代から店を受け継いだ2代目が、新たな方向性を打ち出すべくスタジオの改築を行った。
設計コンセプトは、どの角度から写真を撮っても絵になる空間づくり。床には打ちっ放しのコンクリートや年季の入ったフローリングを使い分け、壁の一部にヨーロッパ製のアンティークなレンガをあしらった。オールドテイストの家具や個性的な観葉植物が建築デザインと融合し、この場所でしか撮れない付加価値を生み出している。
「店舗を改築してから新しい顧客が飛躍的に増え、ほとんど活用されていなかったスタジオの予約が増えました。お金を掛ける部分を間違えなければ、最小限の予算で最大の表現ができるのです」。
インテリアやプロダクトへの造詣が深い今瀬さんだからこそ、店舗デザインをトータルにコントロールすることが可能になる。この仕事にも、そんな彼の特徴が存分に発揮されている。
「店舗設計は、クライアントときちんと話ができておもしろいものができるなら成果報酬でもいいと思っています」。その言葉には、プロとしての責任感と新しい挑戦意欲に満ちていた。
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改築
LA.CHIC
徳島市助任本町5-50
■完成/2013年8月 ■施工/ヒサシ工務店
設計コンセプト
「既存建物の良さを十分に引き出すことをコンセプトとしました。外部は過剰な装飾をせず、内部も既存の素材を使いながら再構成することで一体感を強め、建物自体が一つのデザイン・意匠になるよう考えました」(今瀬)
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改築
Studio D&M
徳島市西二軒屋町1-61 ■完成/2015年5月 ■施工/ヒサシ工務店
設計コンセプト
「場所としてのバランスを大切に考えました。写真スタジオとして、内装の素材感や意匠の構成はどこか一部分に違和感があればそれが出てしまうので、それに気をつけながら一つの大きな空間の中でどう見せられるかを慎重に設計しました」 (今瀬)
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改築
KAWAZOE FRUIT
鳴門市大津町大代760
■完成/2014年8月 ■施工/ヒサシ工務店
設計コンセプト
「シロップやジャムなどを販売するお店です。実家の一部を改装した店舗の周りには加工に使われる果樹園が広がり、目の前には加工場があります。商品が作られる場所や空気を感じながら、その場所へ訪れた意味を分かってもらえるような設計を心がけました」 (今瀬)