» 2019/07/03/
他店との差別化をどのように図るのか。サービスの特徴をブランディングへとつなげていく作業は、すべての業種に不可欠なテーマと言える。店舗設計においても、それは同じ。店の個性をいかに表現するかが一つのポイントとなるが、兼間さんは「ほんの少しだけ違いが見せられればいい」と話す。
「人に指を指されるような奇抜なデザインは必要ありません。それは、店舗も住宅も同じです。周囲との違いが分かるよう少しだけ変化を持たせることが大切だと考えています」。
少しだけ変える。言葉にすると簡単だが、実現するためには、高い手腕が必要となる。世の中に氾濫する設計のセオリーから脱却するために、どのような手法を用いるべきか。その答えを兼間さんは常に探し続けている。
「素材で言えば、ガルバリウムをアルミに変えるだけでも差別性が生まれる。見た目だけの効果だけではなく、クライアントが『本物の素材を使っている』と意識できることが大事。その気持ちが今後の仕事にもつながっていくと思っています」。
汎用的なデザインから外れようとすると手間は増え、高い技術を求められることになる。兼間さんは、その苦労を周囲に感じさせることなく「少しの違い」を表現していると言える。
2010年に手掛けた共栄石油の仕事には、兼間さんの店舗設計に対する考え方が凝縮されている。まず驚かされるのが、常識を覆した配色。アルミを使ったシルバーの建物を中心に、赤・青・黄の原色が壁や窓枠などに配色されている。これまでの給油所のイメージにとらわれることなく、街中でのインパクトを高める狙いがそこにはある。
「青色は有名な外車のカラーをモチーフにしているので、車好きの人にはピンとくるかもしれません。給油機の色や屋根の形、照明のフォルムに至るまで、とにかく細部を丁寧に作り上げました」。
防火性や防犯性などの専門性を必要とする給油所の建築において、ここまでデザイン性にこだわったのも「企業にますます発展してほしい」という想いから。配色や素材を少し変えるだけで、店舗はその輝きを倍増させることが分かるだろう。
「設計を手掛ける時は、とにかく線を一本ずつ丁寧に描くことを大切にしています。デザイン云々よりも、まずは心を込め、粘り強く描く。そうすると、なぜか建物に誠実さや個性が浮かび上がってくるんです」。
言葉を飾らず、誰ともフランクに話をする姿が印象的な兼間さん。その裏には、誠実さと強い責任感という素顔が潜んでいる。
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新築
いさお歯科
徳島市西新浜町1-4-1
■完成/2009年5月 ■施工/亀井組
設計コンセプト
「目立ち過ぎない。しかし存在感がある。額縁や箱デザインの組み合わせにしない。ファサード7本の壁柱をデザインの根幹とした。歯列を連想させ、意識内容に反応できると考えた」 (兼間)
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改装
コンパビル
徳島市秋田町1-47
■完成/2014年7月 ■施工/姫野組
設計コンセプト
「飲食店ビルのリノベーション(刷新)である。秋田町の本通りで明る過ぎないが、他のビルより明るいこと。薄暗い複合ビルではなく、廊下・階段・エレベーターも全て明るくすること。そうして際立って目立つこと」 (兼間)
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新築
共栄石油(株)鳴門給油所
鳴門市撫養町南浜字東浜439
■完成/2010年8月 ■施工/井上建設