» 2019/07/04/
なぜ、自分の所に店舗設計の依頼が届いたのか。原さんの建築デザインは「自分を選択してくれたこと」への感謝の気持ちから始まる。それはやがて「店舗を必ず繁栄させる」という使命感へと形を変え、クライアントとの濃密なやりとりが始まるのだ。
「まずは、経営者が意外と見えていなかったり、忘れていたりする視点に改めて光を当てます。店舗設計の究極の目的はお店の繁栄ですから、目的を達成するためにはクライアントとも積極的に意見を戦わせなければなりません」。
原さんの提案の中には、クライアントが考えていなかったスペースやデザインが度々含まれる。お店の集客や成長に必要と判断すれば、それを無視して設計を進めることはできないからだ。
「クライアントが意外と忘れがちな消費者目線を、いかに建築デザインに取り入れるかが大切。成功と失敗が必ず存在する店舗設計においては、住宅以上の緊張感があると言えるでしょうね」。
たとえば、近年手掛けた呉服店の2階には、当初予定のなかった和室が設けられた。今では着物イベントなどの会場として使われるだけでなく、成人式の撮影場所としても活用されている。いかにして店を繁栄させるのか。この最終目標を見つめ続けるからこそ、生まれた発想の一例と言える。
和風でもなく、洋風でもない。しかし、どんなジャンルの店舗でも違和感なく使用することができる。原さんが手掛ける建築のほとんどが、そんな普遍的なデザイン性を帯びている。その根底には、日本人が持つ精神性を建築に封じ込めるという手法が潜んでいる。
「あからさまに和の要素を加えるのではなく、日本人の潜在意識の中にある感性を刺激するのです。それは、年月が経つほどに味の出る素材であったり、シンプルな色使いであったり、光と影のバランスであったり。店舗によって表現手法が変わっても、この基本が失われることはありません」。
蒲鉾工場の一角を小売店として改築した事例からも、その言葉の意味を伺うことができる。無彩色の工場に浮かぶモダンな空間は、一見カフェやブティックのようだ。しかし、軒や柱の繊細なライン、鉄や石の素材などによって和の精神性が表現され、まったく新しい蒲鉾販売店として成立している。
「素材の特性を活かすことで、建築に長い寿命を与えることも可能になります。お店の繁栄を支え、地域に愛されながら歴史を刻んでいくような店舗を創り続けたい」。
建築家とクライアントの熱が溶け合い、一つの塊になった時、徳島にまた一つ名店が生まれる。
---------
新築
きもののたかはし高橋呉服店 徳島店
徳島市南昭和町4-92-116
■完成/2011年11月■施工/姫野組
設計コンセプト
「着物文化の愛好者の増加を念頭に、当該建物まで人を導くことの出来る魅力のある空間と同時に、数々の素晴らしい商品群の魅力を存分に引き出すべく、近代的な『洋』の文化と守るべき『和』の文化が融合し織りなす建築を目指した」 (原)
----------
新築
道の駅 「温泉の里 神山」
名西郡神山町神領西上角151-1
■完成/2001年8月 ■施工/姫野組
設計コンセプト
「地域の特産品の販路の拡大及び林業の振興を願うと共に、我が故郷、山間に位置する神山に相応しい建築を希求した。地元産の温もりのある木材や石材といった素材をふんだんに用いる事で、人々の集う憩いの場となるように心掛けた」 (原)
----------
改築
四宮蒲鉾店
徳島市津田本町2-4-12
■完成/2003年4月 ■施工/谷工務店
設計コンセプト
「蒲鉾工場の一角に小売りができるスペースとして増設。全国的に類を見ない品質の良さを伝える為に、従来の蒲鉾屋の既成概念を覆す意匠とした。また限られた予算内で納める為に、改修範囲を絞り込み密度を高める意匠を施した。」