» 2019/07/06/
インドで建築を学んだ2人には、共通する哲学がある。人を自然の一部と考え、大地の恵みをいかに建築に取り込むか。「周囲の環境を活かす」という聞き慣れた言葉も、この2人が使うと急に重みが増す。光や風、自然素材がもつ力と魅力を引き出し、人にとって本当に大切なものを空間に封じ込める手法は、全国誌でも大きく取り上げられるほど洗練されている。
ある住宅を手掛けた時には、美容室の経営者でもある施主から、店舗設計の依頼が寄せられた。「この感動的な心地良さを、お客様にも提供したい」という欲求が湧き上がったからだ。「地域が持っている魅力や豊かさを探り出し、そこで生きようとしている人の価値観や夢と合体させていくのが私たちのやり方です。自然の恵みを感知できるような建築を常に目指しています」。
たとえば、新居夫妻が手掛ける建築には、ガラス張りのダイナミックな開口部を用いる事例が多い。いかにして壁などの仕切りを少なくし、屋内外を一体化させていくか。その答えが導き出された時、建築は地域の山々や田園風景とつながり、心地良い光や風を招き入れる。店に訪れる人々にとっても、日常を忘れさせてくれる特別な場所としての存在感を放つのだ。
地元の豊かな環境を取り入れた店舗設計は、現場で働くスタッフたちのモチベーションをも高める。プロの職人としての意識が強い方ほど、職場環境にもこだわる傾向があると新居さんは言う。
「たとえば、1日のほとんどを厨房で過ごすケーキ職人だからこそ、休憩室では心からリラックスしてほしいと思う。ベランダの壁にわずかな開口部を設けて周囲の緑を取り込むなど、常にフレッシュな気持ちで仕事ができる環境づくりを心掛けています」。
新居さんの元を訪れるクライアントの業種も多種多様。職人たちの働きやすさや顧客ターゲットへの配慮、地域の中での存在感など、そのすべてを満たすための入念な打ち合わせが繰り返される。
「クライアントが私たちに期待しているのは、あくまでも自分たちの専門を超えた部分です。どのようなプラスアルファを建築がもたらしてくれるのか。ただ、職人や技術者は自分の思いを中心に物事を考えてしまう傾向にある。ビジネスを成功させるために、私たちは多様な見方や価値観を提案する必要があると思っています」。
クライアントの想像を超えた店舗設計を実現するため、2人は抜群のチームワークで、人々の感性に響く建築デザインを優れた技能と施工力をもつチームとで追い求めていく。
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新築
パティスリー オゥ・ポワヴル
板野郡北島町江尻字旭光3
■完成/2010年6月 ■施工/アズマ建設
設計コンセプト
「こもれびの広場を中心に、お菓子文化を育む空間」 (新居)
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改築
ヘルス&ビューティ・オアシス チヨ
徳島市丈六町行正6-1-1
■完成/2013年6月 ■施工/アズマ建設
設計コンセプト
「2004年、2008年、2013年と改修を積み重ねてきた、健康をテーマとする美容室。 緑の環境を映し込み、心地よい風が通るやすらぎ空間をつくる」 (新居)
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新築
Leaf Hair
徳島市丈六町山根83-2
■完成/2011年10月 ■施工/アズマ建設
設計コンセプト
「裏山を活かし、生かされる静謐なひとときを過ごす美容室を設計。自然のスケール感をもった空間ののびやかさをつくる」 (新居)
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新築
椿原歯科
徳島市中前川町5-1-279
■完成/2014年11月 ■施工/アズマ建設
設計コンセプト
「極小三角形の敷地に木造のあたたかさと、ゆとりのある診療空間を作る」(新居)