» 2019/07/01/
施設建築における最大の目的が、企業の成長と繁栄にあることは言うまでもない。建築家の責任は、その規模に比例して大きくなると言えるだろう。
野々瀬さんは、大規模なオフィスビルや教育施設を数多く手掛けてきた建築家の一人。徳島発のベンチャー企業として世界に羽ばたいたジャストシステムの社屋も、彼の設計によるものだ。
30代から40代にかけての仕事であり、その時に積んだ経験とノウハウは、後の仕事でも大いに活かされている。
「徳島には施設計画のコンサルタントを専門としている会社が少ないため、その役割を建築家が担うことが多くあります。予算や立地条件をもとに建物の規模を決め、将来的な採算計画にも携わっていく必要がある。自らの成功体験をもとにしながら、実際に建築を行う立場としてアドバイスを行っています」。
都市計画や地域計画に携わってきたことも、野々瀬さんの強みだ。土地の解析や周辺環境との調和など、まちづくりの観点から建築を考察することで、時代の変化にも対応した施設を生み出していく。
「長期に渡って企業の成長を支えられる建築を目指しています。適切な規模や設備、デザインなど、考え方の骨格がしっかりしていれば、社員の増加や業態の変革にも対応することができます」と野々瀬さんは言う。
県庁の横にある「スタン万代町ビル」は、野々瀬さんが手掛けたテナントビルの一つ。県庁の拡張工事に伴い移転したものだが、改めて見ると周囲に溶け込む姿に魅了される。
「県庁とホテルの間という立地で、目の前にはヨットハーバーもある。無機質で近代的なデザインよりも、リゾート的な雰囲気を持ったファサードが相応しいと思いました」。
道沿いからビルを見ると、各フロアの間に木材が貼られていることに気付く。使われているのは南洋材で、ヨットの甲板をイメージしたもの。入口にも無垢材の柱を用いるなど、遊び心のあるデザインによって、ビルの存在感を創出した。苦戦が続く地方の商業ビル経営の中で、常にすべてのフロアが利用企業で埋まっている。
野々瀬さんの事務所には、モダニズム建築の巨匠、ル・コルビジェが手掛けた建築の模型が置かれている。その屋根の微妙な勾配を見ながら、彼はうれしそうに口を開いた。
「モダンって簡単に言うけれど、その定義はとても難しい。ロココやゴシックなどの様式にとらわれない、新しい表現全般を指す言葉だと思う」。
クライアントの企業カラーに合わせて、建築をゼロから組み立てる。その意味において、野々瀬さんの建築は、常にモダニズムの先端を走っている。
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新築
四国大学交流プラザ
徳島市寺島本町西2-35-8
■完成/2004年3月 ■施工/清水建設
設計コンセプト
「徳島駅前に近い交通の利便性の高い場所に、大学の町中での教育、公開市民講座、学会開催、講演会の開催、ギャラリー展示など、教育と社会との幅広い交流施設とする計画。多様な教育的用途に対応可能な白いガラス、タイルの壁に包まれたニュートラルな空間をデザインしました」(野々瀬)
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新築
スタン万代町ビル
徳島市万代町2-4-5
■完成/2001年10月 ■施工/竹中工務店
設計コンセプト
「徳島県庁横に立地する1階が店舗、2階以上が賃貸オフィスのテナントビルです。木の板をあしらった外壁、耐火設計の木造のエントランスなどで、海洋リゾートの雰囲気のある新町川沿いの街並み景観に溶け込むようにデザインしました」 (野々瀬)
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増改築
大櫛内科循環器科
徳島市寺島本町東3-10
■完成/2009年9月
■施工/清水建設
設計コンセプト
「既存の病棟と新築する診察棟をジョイントして新しい医院にしました。清潔感があり、アットホームな暖かみのある外観とインテリアにすることで、患者さんの不安な気持ちを和ませられればと思いデザインしました」(野々瀬)
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新築
秦商事 高松支店
高松市国分寺町新名45-1
■完成/2014年6月
設計コンセプト
「商社の支店と倉庫です。情報化時代が進む中、的確な商品情報の提供とニーズの把握、受注、納品のスピード化が求められていことに対応した最新の情報化オフィスと高い物流機能をもつ倉庫をデザインしました」 (野々瀬)