» 2019/07/20/
「地方再生」の言葉が徳島に押し寄せる中、県内でも若い世代による新たな店舗展開が見られるようになった。新聞や雑誌で取り上げられる店舗に共通しているのが、人々の心を惹きつける建築空間のユニークさ。そして、その多くに高橋さんが関わっていることだ。
県外出身の高橋さんは、徳島とのつながりを深めるため、独立後に積極的なフィールドワークを展開。各地で開催されるイベントに参加しながら人脈を広げてきた。
上勝町にオープンしたカフェ「ポールスター」を手掛けたのも、地元インターネット放送をたまたま観て連絡したのがきっかけ。ふるさとにUターンを果たしたクライアントと出会い、膝を交えて話をする中で、インテリアを含めた店舗設計を任されることになる。
「あの街に合わせて店舗をデザインしてしまうと、古民家風やログハウス調になってしまう。過疎と高齢化が進む街だからこそ、モダンな空間でおじいちゃんやおばあちゃんがあたりまえにコーヒーを飲んでいるべきだと思った。その方が、都会の人から見ても面白いはずですから」。
計画は見事に成功。平日は地元の人々でにぎわい、週末になると町外から多くの人が訪れる人気店となった。建築家の客観的な視点が、店舗を成功へと導いたのだ。
高橋さんの建築には、一つのモットーがある。それは「その場所でしか成立しない」ものを作ること。特に店舗設計はビジネスの成功が前提条件となるため、よりコンセプチュアルな方向性を追い求めていく。
「足を運んでくれるお客様に、いかに非日常的な空間や時間を提供できるかが大切です。よりダイレクトに自然を見せたり、働く人がカッコよく見える場所を作るなど、コンセプトを際立たせていく必要がある」。
徳島市における空き家再生の成功事例としてメディアを賑わす「ナガヤプロジェクト」も高橋さんが設計を担当。一見何の価値もないように見える朽ち果てた長屋を、カフェや雑貨店の複合施設へと生まれ変わらせた。
「せっかくボロボロの長屋を使うのだから、時代の経年変化が感じられる空間にしようと。錆付いたトタンや屋内の土壁をそのまま残し、新たに加えた素材との対比によってレトロ感に磨きを掛けました。コンセプトさえしっかりとしていれば、年月を重ねても強い部分だけが店舗に残っていきますから」。
なぜ、この場所に建てるのか。どうして、その建物を使うのか。地域との交流を重ねる中で磨かれてきた視点こそが、高橋さんの大きな武器だ。もちろん、誰にも負けない情熱も。
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新築
cafe polestar (カフェ・ポールスター)
勝浦郡上勝町大字福原字平間32-1
■完成/2013年12月 ■施工/コール
設計コンセプト
「敷地は、人口約1800人(建設当時)の過疎と高齢化が進む徳島県で一番小さい町、上勝町。南面は生活道、北面は自然が拡がる風景と対面する敷地条件だった。内部に入ると大きな自然が目に飛び込んでくるように三寸勾配の片流れ屋根を採用し、長く大きなテーブル、大きな窓、上勝舞台と呼ばれるデッキテラスは、奥へと延びていく風景を意識させ、四季折々の風景と身体が呼応する。また、水平に伸びる屋根は、自然を美しく切り取り、通りを行き交う人達にも『上勝らしさ』を感じてもらうことができる。内部は無垢のフローリング、梁現し、漆喰塗仕上げと自然素材を採用し、内部の空気環境も整える。建築が町で継承されていくことは愛着をもって利用されることだと考え、内部の漆喰塗や塗装の仕上げはワークショップが開かれ、オーナーや町民、知人によって仕上げられた。*LAN」 (高橋)
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改築
総合センター 川又商店
吉野川市美郷字川俣4-12
■完成/2016年2月 ■施工/コール
設計コンセプト
「敷地は、吉野川から少し入った美しい自然が残る静かな里山、美郷。おもに地元住民が利用する地域密着型の商店だった。今回のリノベーションで、今までの日用品と雑貨・衣料などの販売に加え、地元の方や観光客が気軽に集まり、利用できるコミニュティースペースを融合させた。既存の箱の中に、ぐるりと囲んだ木材だけで組まれた間仕切り壁は、買い物客とコミュニティスペース利用者が交わらない役目を担っている。背の高い従来型の什器を撤去し、開放的な空間に仕上げたことによって、商品一つ一つが見やすくなり、また、夜には優しい光をマチに灯す。*LAN」 (高橋)
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改築
ナガヤプロジェクト
徳島市沖浜町大木247
■完成/2014年9月 ■施工/コール
設計コンセプト
「敷地は、徳島の中心にある住宅街。10年ほど手つかずで、築50年の借家だったトタン長屋をリノベーションし、雑貨屋とカフェスペースを併設。平屋建て長屋2軒の間仕切りを無くし、1軒につなぎ合わせた。時代から時代、人から人へと繋がっていくことを大切な時間軸と考え、壁や天井、窓枠などは当時の面影そのままに残し、新しくさわる部分をしっかりデザインしてあげることにより、一つの建物の中で時間の流れを感じられるように試みた。借家から店舗へ、また次の機能と人により新しい息が吹き込まれる建物は時間と共に愛着へと結びつく。*LAN」 (高橋)