» 2019/07/14/
大衆食堂に入り、店主自らが書いたと思われる手書きのメニューを手に取り、いつもの料理を注文する。そんな素朴な光景の中に、鳥羽さんが目指す建築の理想型が潜んでいる。
「凝った店の作りでもないのに、とても居心地が良いし、客も自然体でお店を利用することができる。それは店の雰囲気、メニュー、味、そして店主、すべて一体になっているからです。店主自身が身の丈に合わせ、使いやすいように経営してきた結果だと思いますが、私たち建築家は客観的な目でお店の本質を捉え、一体感のあるデザインを提案する必要があります」。
店舗設計はモダンさやアンティークさを付加して、見た目を洗練することは簡単にできる。しかし、何かが突出し過ぎるとバランスが崩れ、利用者にとっても違和感のあるお店になるという。「メニューや器、料理など、すべてに一体感があって始めて、時間の経過とともに魅力が深まるお店ができると思うんです」。
鳥羽さんが一つの建築スタイルに固執しないのも、あらゆるタイプのクライアントに合わせた設計を行うため。柔軟な思考と提案力で、地元に溶け込んだ店舗を生み出している。
ラーメン店に焼き鳥店、居酒屋、ワインバー、ブライダル関連など、鳥羽さんが手掛けてきた店舗のジャンルは実に多彩。この10年間で、30件近くの店舗設計に携わってきた。もちろん建築の規模も違えば、それぞれのテイストもさまざま。豊富な経験を活かし、クライアントの要望をカタチにしていく。
「極論を言えば、住宅建築は住まう家族が心地よく、幸せであればそれで良い。でも店舗の場合は、お金を頂く『お客さん』という第三者の目線が必要になります」。
どんなお店にすれば居心地が良いかを考える時、「やっぱり一番大事なのは、クライアントの個性を置いていかないこと。クライアントの『らしさ』を引き出すことが、僕の大きな役割かな。要望と自分の考え方をうまく調和させながら、お客さんから愛されるお店を提案していきたいですね」と鳥羽さんは話す。特に飲食店からの依頼が多いのは、彼自身が心底好きなジャンルだということを、クライアント側も感じているからかもしれない。いきつけの飲み屋に顔を出し、店長や仲間とのコミュニケーションを楽しむ。そんな彼だからこそ、本当のお店の魅力を見いだすことができるのだろう。お店の「らしさ」が建築へと乗り移った時、また一つ、地元に名店が生まれる。
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改築
CAFE CASUAL USA
徳島市沖浜東1-16
■完成/2004年 ■施工/阿波三松園
設計コンセプト
「街中の老舗レストラン。オーナーが所有していた枕木(約400本)を使っての『駐車場』の改装。オーナーの想いはもちろんですが、近隣の方の樹木に対する理解があって成り立っている景観であることも大切なこと。徳島は特に街路樹が酷い。こを訪れた人が少しでも同じ意識を持ってくれれば街の景観は変わるように思います。そんなことを願い計画しました」 (鳥羽)
*第5回徳島県まちづくり環境大賞まちづくり造景部門 / 優秀賞、第10回 徳島市まちづくりデザイン賞・まちかどパーク賞。
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新築
樫野倶楽部 観月邸 梨宮
板野郡松茂町広島字北川向四ノ越29-1
■完成/2015年3月 ■施工/島出建築事務所
設計コンセプト
「少し小規模なバンケットとしての梨宮は、樫野倶楽部の施設の中で初めての新築棟。目新しさを主張させるのではなく、いかにその場所に馴染ませるかが課題でした。水平方向は北の庭に対して開放し、垂直方向からの光は天井の形状と交わり、内部空間を柔らかく包みます」 (鳥羽)