» 2019/08/01/
建築家
住宅 [寝屋川市・T邸]
大阪府寝屋川市に建つ築80年超の民家。もともとは徳島で建てられ、ご主人のお父さんがいたく気に入ったために、戦後になって大阪へ移築したものでした。
ご主人にとっては幼少期を過ごした思い入れのある家ではありますが、経年による劣化から、「建て直した方が良いのでは?」と考えたそう。しかし、そんな相談を受けた野口さんが、「立派な入母屋造りで、随所に見られる材の良さや意匠も値をつけることが難しいほど。“再生”という形で残しましょう」という提案をしたことで、リフォームの手が入れられることになったのです。
大きな問題だったのが、阪神淡路大震災の影響から建物が傾いていたことでした。昭和初期には、耐震に関しての規制はありません。現代の基準を当てはめられるべくもなく、また屋根の瓦の重みも手伝って、大地震に耐えられなかったのです。そこで今回のリフォームでは、何より耐震性を確保するということに念頭が置かれました。
家自体をジャッキアップして下にコンクリートを打って傾きを直し、建物を支える楓の大黒柱を新たに導入。壁材も新たにし、一方では趣のある佇まいはそのままに、強度の確保を実現したのです。
必要なところに壁を入れつつ、それでも当時の面影を感じながら生活してもらえるようにと、間取りやしつらえに大きく手を加えることは、あえてしていません。ひとつ、大きく変えたところと言えば、1Fの寝室とした8畳の部屋でしょうか。
「状態を見るために天井を開けたら、立派な松の木の梁が幾重にもなっていたんです。建物全体を支えるための梁と、建物の外に出ている破風を支えるための梁があって。現代では長方形に製材された構造材を使うことが多いですが、このお宅では曲がった松の木を当時の大工さんが上手に組み上げている。せっかくだからこの機能美を見せたいと思って、ちょうどこの部分には2Fがなかったこともあって、吹き抜けにして大胆に演出したんです」(野口さん)。
随所に“古き良き”を感じさせるお宅ですが、キッチンだけは別でした。「建物は古くても、私は新しく生きたいんで(笑)」という奥様のご要望で、ドイツ製のビルトインキッチン「GAGGENAU(ガゲナウ)」を入れるなど、白を基調とした整然とした雰囲気に。とはいえ、昔ながらの和の雰囲気とも調和するようにスサを練り込んだ珪藻土の塗り壁にするなど、現代人ならではの趣向も凝らされています。
「こんなになるとは思っていなかったんでね、正直、ビックリしました(笑)。この家を建てたのは腕の良い大工さんだと聞いていますし、今回、新たに生まれ変わらせてくれたのも腕の良い建築家。築80年超と古い家ですが、これからまた何十年と、私たち家族を見守ってくれたらと思います」(ご主人)。
Tさんの夢を叶えた建築家
設計コンセプト
「広い敷地に建つ木造2階建の母屋とコンクリート造のモダンな離れをどのように違和感なくつなげ再生するかがテーマであった。今回の大修理のシンボルとして楓の丸く太い大黒柱を母屋の中心に据えた。又大屋根に飾られていた鬼瓦を、この家の記憶を継承するため枯山水の中庭に置き、広縁と渡り廊下から眺められるようにした」
設計のこだわり、苦労したところ
「昭和初期に徳島に建てられ、太平洋戦争後大阪に移築した木造の母屋は、阪神大震災などの影響で2階の床が大きく沈んでいた。1階床下にコンクリートを打ち、2階の梁をジャッキアップし、大黒柱と耐力壁で固めた。欄間やふすま、障子は可能なかぎり活かし取りとし、耐震補強の跡をできるだけ目立たない再生工事とした。又、台所、浴室、便所などの水廻りは全面改修となったが、塗り壁や和紙などの自然素材を用い、既存部分と快い統一感をもたらすことをこころがけた。大工、建具など主な職人さんは、徳島から泊り込みで行ってもらった。徳島で生まれ、移築された民家を徳島の職人さんたちが再生する。これも何かの縁ではないかと思う」
■家族構成
施主夫妻(60代)
■構造・工法
木造2階建・RC1階建、軸組工法・壁式工法
■敷地面積
600㎡(約181坪)
■延床面積
合計 382㎡(約115坪/母屋71坪、離れ35坪、車庫9坪)
1階 281㎡(約85坪/母屋50坪、離れ35坪)
2階 71㎡(約21坪/母屋21坪、離れ0坪)
車庫 30㎡(約9坪)
■スケジュール
設計期間 2013年2月~2013年8月
工事期間 2013年8月~2014年5月
■設計監理
野口建築事務所
■施工
野口建築事務所
1 玄関
2 ホール
3 DK
4 和室1(10帖)
5 縁側
6 広縁
7 ユーティリティ
8 洗面室
9 浴室
10 便所
11 納戸
12 クローゼット
13 寝室
14 中庭
15 客間・サロン
16 洋間
17 玄関ポーチ
18 ガレージ
19 和室5(7.5帖)
20 和室4(12.5帖)